アイルランドが生産性世界一になった理由と、ジョー・バイデンの逆襲
タックスヘイブンがもたらした生産性世界一
経済協力開発機構(OECD)の最新の数字は、アイルランドが地球上で最も生産性の高い国のリストのトップにあることを示しています。
その数字をあげると、以下の通りになります。
- アイルランドが$99.50(11,243円)
- ルクセンブルク$98.50(11,130円)
- ノルウェー$83.10(9,390円)
ちなみにアイルランドの最大貿易国である
- 米国$ 72(8,136円)
- 英国$ 61.1(6,904円)よりも大幅に高く、
- OECD平均の$ 54.8(6,192円)
のほぼ2倍になります。
アイルランドの成功の最大のポイントは、多国籍企業の優位性です。
世界で最も魅力的な法人税率の1つに魅了されたアイルランドには、1,000を超えるFDIの巨人がいます。
グーグル、HP、アップル、IBM、フェイスブックなどの企業は数万人を雇用し、島に540億以上の収益をもたらしました。
多国籍企業を受け入れたことがアイルランドの成功の鍵です。
※FDIとは「Foreign Direct Investment」の略で、「海外直接投資」のことを指します。
2010年、財政赤字に苦しむアイルランドは信用不安により資金調達ができない状況に陥り、IMF(国際通貨基金)やEU(欧州連合)に救済を申請します。
救済プログラムの元で緊縮財政を行い、財政再建を実施。
2013年12月15日には救済プログラムから脱却できるところまで漕ぎ着けました。
国際機関の後ろ盾なしで、市場から資金調達をできるようになったのです。
アイルランドの財政再建を支えたのは2010年以降も衰えなかった海外からの直接投資です。
EU最低の12.5%という法人税を武器に多くの企業を呼び込むことに成功しています。
政府産業開発庁(IDA)のバリー・オリアリー長官へのインタビュー。
(企業誘致の責任者)
――アップル、グーグルなど米国の著名企業がアイルランドに進出している。アイルランドは「米国企業の欧州拠点」というイメージがある。
たしかに米国企業は現在、直接投資のおよそ70%を占めている。
が、最近では欧州、アジアからも増えているが、それでも主体は米国企業だ。
その理由はアイルランド政府産業開発庁(IDA)が力を入れている分野では、米国企業がリーダーシップを発揮しているからだ。
われわれが注力している分野は4つあり、その4分野だけで全投資の85%に及ぶ。
1つ目がICT(情報通信テクノロジー)関連、2つ目がライフサイエンス関連で、製薬、医療機器などの分野だ。
3つ目が金融関連の企業。それから4つ目がデジタルメディア、デジタルコンテンツ、ソーシャルメディアなどの新しい産業だ。
武田、アステラスなどが進出
もちろん米国企業だけではなく欧州の著名企業も進出している。
いくつかの企業名をピックアップすると、ノバルティスファーマ、サノフィ、アリアンツ、SAPなどがアイルランドに投資をしている。
日本企業も多い。たとえばライフサイエンスの分野であれば武田薬品工業、アステラス工業、グッドマンが拠点を開設している。
ICT関連で富士通、アルプス電気、NTTが進出しており、金融サービスセクターの中ではSMBC(三井住友銀行)が積極的だ。
航空機のリーシング事業、国際金融サービス、IT関連の開発などを手がけている。
ソーシャルメディア、デジタルメディア関連では楽天の子会社であるkobo(コボ)、リクルートが買収した米インディード、ガーラがアイルランドに拠点を設けた。
最近は中国、インドにも事務所を開設し、アイルランドへの進出をサポートしている。
中国のファーウェイ、インドのウィプロなどが進出している。
――4分野に力点ということだが、そのうちICTが先行している、という理解でいいか。
そのとおり。今から20年前を振り返ると、最大の海外からの直接投資元というのは、Tシャツなどを生産していたフルートオブザルームという会社だった。
ちょうど同じ時期に、インテルがアイルランドに徐々に工場の投資を始める時期だった。ここからICTの集積が始まっていったので、4分野のうち先行したのはICTだ。
1060社以上が進出
――アイルランドへ投資をする魅力とは?
どのような企業も進出国を決める際には多くの要素を勘案するが、アイルランドには、4つのT、4つのEという基本的な強みがあるとアピールしている。
4つのTのうち最も優先順位が高いのがタレント(人材)。
どの企業も、投資を検討する際にどのような人材レベルがあるのかを最優先課題として考える。
2つめのTがトラックレコード(実績)。
つまり、同業他社が過去にどのような投資をしたか、そしてその後の再投資を行っているのか、という点は投資判断をする上で重要だ。
アイルランドにはすでに1060社以上の企業が進出しており、事例が豊富だ。3つめのTはタックス。
12.5%の低い法人税は大きなポイントだ。4つめのTがテクノロジーだ。
――4つのEとは。
まず1点目がEU加盟国であるということ。2つ目のEは、英語を使用できること、三つ目のEは、Ease of businessということでビジネスのやりやすさ。
4点目のEがエデュケーション(教育)だ。4つのEはいわばソフト面の魅力といえる。
さらにこうした基本の部分だけでなく、個別具体的に産業クラスターを作るための投資を行っている。
たとえば製薬企業を助けるために、IDAは6000万ユーロを投資してリサーチとトレーニングのためのセンターを開設した。
また豊富な電力、水を確保できる工場団地をアイルランド全国で6カ所整備した。
――魅力の中では法人税率が12.5%という点は大きい。財政危機の際にもこの税率を維持したが、引き上げるべきとの声も強かったのでは。
ここで手がかりになるのは、GDP(国内総生産)に占める法人税の割合だ。
EU全体の平均値はGDPの2.6%。それに対して、アイルランドは2.8%だ。ちなみに英国は3.1%だ。
法人税率が30.6%と高いフランスの場合は8~9%だ。われわれが適用する法人税率12.5%は低いものではあっても税収という点ではEUの平均値を上回っている。
つまり妥当な水準であると考えている。
低率の法人税により海外からその投資を呼び込み、その投資によって、国民が大きな便益を受けているという状況は、国民に理解されていると思う。
――雇用にも繋がっており、国民は支持していると。
そのとおりだ。企業を誘致することで、国内の経済活動は非常に活発化する。
私どもの総人口は460万人相当と非常に小さいが、アップル、IBM、ヒューレット・パッカードなどの投資により多くの雇用が生まれている。
――例えばソーシャルメディアの企業誘致には、ルクセンブルクなどベネルクス諸国も力を入れている。ICT企業の誘致にはフィンランドも熱心だ。他国の動向は意識しているか。
確かに以前に比べると競争は高まっている。しかし、アイルランドは非常に強い優位性をもっている。
何と言ってもトラックレコードをみてほしい。
グーグル、ヤフー、アマゾンはすでに投資をしているが、最近になってリンクトイン、ドロップボックスもアイルランドを選んだ。
これは先ほどの4つのT、4つのEといった点が強い優位性として評価されたためだ。
20の拠点で進出をサポート
――多くの著名企業が進出しているが、先方からIDAにアプローチがあるのか。それとも勧誘するのか。
先方からアプローチしてくれれば実に簡単だが、そうではない。
私どもIDAは積極的なマーケティング活動を展開している。
世界各地に20の拠点を設けており、そのうち米国には6つの拠点がある。
専門性を持ったチームを構え、アイルランドの魅力をアピールすると同時にきめ細かいサポートをすることにより誘致を成功させている。
――IDAは多くのスタートアップと係わり合いを持っている。いっそのこと誘致だけでなく、出資もすれば相当な利益をもたらしそうだ。
いいアイデアだが私どもの任務は、投資を誘致するということ。
プライベート・エクイティのようなことは行っていない。
ベンチャーキャピタルはむしろ情報を仕入れるためのパートナー。
一般的に、ベンチャーキャピタルはポートフォリオの中に20~100社の企業がある。
ベンチャーキャピタルから得られる情報は、非常に重要なものだ。
現地のニーズに合わせて適切なマーケティング活動を行うことの重要性は米国だけに限らない。
それは東京事務所であっても同じだ。日本企業のニーズを把握することで、適切な提案をしていきたい。
(2013/12/10 記事 山田 俊浩 : 東洋経済 記者)
先住民と外資系企業の間のギャップ
労働生産性は通常、特定の経済で行われた仕事の価値を経時的に測定し、付加価値の高い仕事が最大の生産性の向上をもたらします。
世界ランキングのトップにあるアイルランドの位置は、ここに多国籍企業が集中していることが全てです。
最近の中央統計局の報告によると、ここでの労働生産性は2000年から2016年の間に平均4.5%増加し、2015年には大幅な増加が記録されました。
同年、多国籍資産が大量に流入し、国内総生産が前例のない26%増加しました。製品(GDP)、後に「レプレショーン経済学」として嘲笑された。
報告書はまた、先住民と外資系企業の間のギャップを浮き彫りにしました。
外資系企業の生産性の伸びは、この期間の平均で10.9でしたが、先住民企業の場合はわずか2.5%でした。
投資
それにもかかわらず、キャンター・フィッツジェラルドのエコノミスト、アラン・マックエイドは、OECDの数字を「非常に勇気づけられる」と述べ、「ブレグジットの前線で物事が洋ナシ型になったとしても、アイルランド社の最終結果は一部の人が予測しているほど悪くはないかもしれない」と示唆しました。
「自動化が進んだ時代(もちろん、場合によっては労働者の生産性を向上させることができます)では、機械が男性/女性から引き継がれ、アイルランドが生産性の面でリーグを上回っていることは非常に前向きな兆候です。
うまくそして本当にパーティーをすることができます、
私たちも非常に一生懸命働くことができます」と彼は言いました。
数字の多国籍要素を認めながら、マクウェイド氏は、外国投資を誘致するという点で、依然としてアイルランド共和国を良い位置に置いているたと述べた。
抵抗
アイルランド政府は、新しいグローバル税制がアップルのような多国籍企業のタックスヘイブンとしての地位を脅かす可能性があるため、防御的です。
2021年の初め、G7諸国グループは少なくとも15%の最低法人税率を適用することにより、グローバル企業が活用する税の抜け穴を塞ぐ。
現在、ニューヨークタイムズ紙は、アイルランドが戦いを繰り広げる計画を立てていると報じています。
New York Timesは、アイルランドが生計に重大な脅威となる可能性のあるものと戦うために「追い詰めている」と報告しています。
アイルランドは長い間、低い法人税率を提供することにより、アップル、グーグル、フェイスブック、ツイッターなどの大手企業を魅了してきました。
1990年代以降の外国投資による国の経済ブームは、「ケルトの虎」という言葉さえも獲得しています。
「アイルランドはヨーロッパで活動しているタックスヘイブンであるため、アイルランドがこれにできる限り抵抗することは理にかなっています。
ケルトの虎は誇りに思うものであり、モデルが壊れているかどうか彼らは可能な限りそれを擁護しているように見える必要がある」と。
ジョー・バイデンの逆襲
バイデン米大統領は2021年10月8日、企業が負担する法人税の最低税率をめぐり、経済協力開発機構(OECD)加盟国を含む136カ国・地域の合意が成立したことで「世界の競争条件がようやく整った」と歓迎する声明を発表した。
2023年に最低税率を15%とする取り決めは「雇用と利益を海外に移転する動機づけを排除し、多国籍企業による国内での公正な分配を保障するものだ」と意義を強調した。
バイデン氏は「米国の労働者と納税者は何十年もの間、多国籍企業による海外移転に報いる税制の代償を払ってきた」と述べた上で、各国が減税や規制緩和で競い合う「底辺への競争」が「多くの同盟国にも不利益をもたらしてきた」と指摘した。
今回の合意が企業の利益を分配し、政府による労働者や経済への投資を増やすことにつながると語った。
上記にある通り、ジョー・バイデンの税制改正はアイルランドの競争優位を終わらせることができか?
バイデン政権による最低税率を15%とする発表は、世界の最低企業税率を推進するというものであり、アイルランド経済に劇的な影響を与える可能性があります。
「私たちはG20諸国と協力して、底辺への競争を食い止めることができる世界的な最低企業税率に合意しています」と米国財務長官のジャネット・イエレンは述べています。
バイデンの計画は、企業がより低いアイルランドの税率で税金を支払った場合、米国(または他の国)がその管轄内でその企業の税金を補充して世界的な最低額にすることができることを意味します。
イエレンは、21%という数字が彼らが念頭に置いているものであるとほのめかしました。
バイデン政権にとって、これは税収が他国に漏れるのを防ぐ方法であり、アメリカの経済に2兆ドルを注入する手段となるという。
アイルランドの経済評論家であるジョン・ウィーランド氏は、アイルランドは「かなり長い間それを乗り越えてきた」とコメントし、バイデンが世界の21%の最低金利を入札したことの重要性を過小評価してはならない。
アイルランドの法人税収入は2013年の約40億ユーロ(5120億円)から2020年には約120億ユーロ(1兆5360億円)に上昇しており、バイデンの計画が成功した場合、アイルランドはまったく異なる経済的未来に直面する可能性がある。と語っている。
まとめ
アイルランドの繁栄は税制優遇政策が全てとっても過言ではありません。
世界で最も魅力的な法人税率の1つに魅了されたアイルランドには、1,000を超えるFDI(海外直接投資)の巨人が集まっています。
グーグル、HP、アップル、IBM、フェイスブック、武田薬品、アステラス…などの企業は数万人を雇用し、島に540億以上の収益をもたらしました。
低法人税と云う蜜で多国籍企業を呼び寄せたこと、これこそがアイルランドの成功の鍵です。
しかしこれが各々の国にとって大きな問題となっているのも事実です。
最も多国籍企業は母国なんて持ちませんから、安い税制のところへ移るだけかもしれません。
アメリカ、ジョー・バイデンは、法人税率を下げることによって抵抗しようとしています。
しかし日本に打つ手があるのでしょうか?、岸田政権の手腕が期待されるところではありますが…