ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げ成功、宇宙の起源を探る

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、宇宙で最初の星を観測へ
2021年12月26日 BBCニュース
「ファースト・スター」を観測
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、フランス領ギアナのクールー発射場からロケット「アリアン5」に搭載されて宇宙へと飛び立った
アメリカ航空宇宙局(NASA)は25日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げに成功した。宇宙で最初に輝き出した「ファースト・スター」を観測する。
100億ドルをかけた最新の宇宙望遠鏡は、フランス領ギアナのクールー発射場からロケット「アリアン5」に搭載されて宇宙へと飛び立った。
望遠鏡は30分後には軌道に到達し、ケニア・マリンディにあるアンテナが、打ち上げ成功の信号を受け取った。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡
ウェッブ宇宙望遠鏡は、これまで外宇宙を観測してきたハッブル宇宙望遠鏡の後継機。アメリカや欧州、カナダの宇宙当局が協力して開発し、先代と比べて100倍もの観測能力を持つという。
名前の由来となったジェイムズ・E・ウェッブ氏は、NASAの2代目長官。アポロ計画にも携わった。
NASAのロブ・ナヴィアス氏は打ち上げの瞬間、「熱帯雨林から打ち上げられ、時間の端そのものへと向かうジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、宇宙の誕生へとさかのぼる旅を始めた」と語った。
大きな期待の寄せられた打ち上げは、同時に多くの不安も抱えていた。この計画には過去30年にわたって世界中の数千人もが関わってきた。「アリアン5」はきわめて信頼性の高いロケットだが、ロケットというものに万全の保証はあり得ない。
ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げは、今後6カ月にわたる複雑な初期活動の始まりに過ぎない。
同望遠鏡は現在、地球から約150万キロ離れた観測ポイントへと移動している。
この道中で、さなぎから出てくるチョウのように、打ち上げのために折りたたまれていた望遠鏡本体を展開する必要がある。
NASAのビル・ネルソン長官は、これは簡単な作業ではないと認めた。
「今後もおびただしい数の作業を完璧にこなす必要がある。それは留意しなくてはならない。しかし、偉業達成には大きなリスクがつきものだ。宇宙開発とはそういう商売だし、だからこそ我々はあえて宇宙を探索しようとするのだ」
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測目標
ウェッブ宇宙望遠鏡の核となるのは、全長6.5メートルの主鏡だ。これは、ハッブル宇宙望遠鏡の主鏡に比べてほぼ3倍の長さだ。
この拡大鏡と4つの超高感度機器で、これまでより遠くの宇宙、つまり、より過去の時間を観測できるという。
主な目標は、「ファースト・スター」の時代を観測することだ。135億年以上前のビッグバンの直後、宇宙は暗闇だったとされるが、そこで最初に生まれたのが「ファースト・スター(初代星)」だという。
ファースト・スターで発生した核反応が、生命の誕生に不可欠な炭素、窒素、酸素、リン、硫黄といった重元素を形成したと考えられている。
また、地球から遠い惑星の大気の計測も、ウェッブ宇宙望遠鏡の重要な役割の一つだ。これは、宇宙のどこかに生命が暮らせる環境があるのかを研究する手掛かりになる。
観測の仕組み

惑星天文学者で、この計画に学際研究員として携わっているハイディー・ハメル氏は、「我々はこれから全く新しい宇宙物理学、未開拓の場所へと入っていく。だからこそ、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に多くの人が興奮している」と話した。
望遠鏡の展開作業は2週間にわたって行われる。それから、巨大な主鏡のピント調整がある。この反射鏡を構成する18個の部品の裏には小さなモーターがついており、それが曲率を調整する。
欧州宇宙局(ESA)のマーク・マコークラン上級科学顧問は、「それから重要なのは、望遠鏡自体を非常に冷たい状態にすることだ」と指摘する。
「この宇宙望遠鏡は実際、摂氏マイナス233度まで冷却される。そこで初めて望遠鏡自体が赤外線を放射しなくなり、望遠鏡を動かしたい環境になる。それでやっと、最初の銀河が生まれた遠方宇宙や、星々の周りをまわる惑星の繊細な画像をとらえられる。なのでまだまだ先は長い」
James Webb
宇宙の最初の星
晴れた日の夜に空を見上げると、わたしたちは肉眼で何千もの星を見ることができます。
これらの星は、天の川銀河の一部分です。
高性能な望遠鏡を使えば、何十億もの銀河からの光で輝く、はるかに広大な領域を見ることができます。
しかし、宇宙論についての私たちの現時点の理解によれば、宇宙はその初期の頃は特徴がなく暗かったと言われています。
最初の星はビッグバンからおそらく1億年後まで現れず、銀河が宇宙全体に増殖する前に10億年近くが要したでしょう。
しかし天文学者は長い間疑問に思っていたことがあります。
暗闇から光へのこの劇的な移行はどのようにして起こったのでしょうか?
宇宙論者は、高度なコンピューターシミュレーション技術を使用して、ビッグバンから残された密度の変動がどのように最初の星に進化したかを示すモデルを推察しました。
さらに、遠方のクエーサーの観測により、科学者は時間を遡って「宇宙の暗黒時代」の最後の日を想像することができました。
新しいモデルは、最初の星が非常に大きくて明るい可能性が高く、それらの形成が宇宙とその後の進化を根本的に変えた画期的な出来事であったことを示しています。
これらの星は、周囲のガスを加熱して電離させることにより、宇宙のダイナミクスを変えました。
初期の星はまた、最初の重元素を生成して分散させ、私たち自身のような太陽系の最終的な形成への道を開いたでしょう。
そして、いくつかの最初の星の崩壊は、銀河の中心に形成され、クエーサーの壮大な動力源となった超大質量ブラックホールの成長をもたらした可能性があります。
要するに、最も初期の星は、私たちが今日見ている宇宙の出現を可能にしたという事になります。
暗黒時代 初期の宇宙の研究は、直接の観測ができないため妨げられています。
天文学者は、数十億年前に光を放出した遠方の銀河やクエーサーで望遠鏡を駆使することにより、宇宙の歴史の多くを調べることができました。
各銀河の年齢は、その光の赤方偏移によって決定できます。
これは、光が生成されてから宇宙がどれだけ拡大したかを示しています。
これまでに観測された最古の銀河とクエーサーは、ビッグバンから約10億年後の日付です(宇宙の現在の年齢を120億年から140億年と仮定)。
研究者は、さらに以前の時代からのより遠い銀河を見るには、より高性能な望遠鏡が必要になります。
という事で今回のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げ成功は、更なる宇宙の起源探求の成果が、期待できるという事になります。