アメリカのエコノミストが言う「円安」はバイデン政権の2024年を一層厳しいものにする、は多分当たっていない。
「価値が下がった円」はバイデン政権の2024年を一層厳しいものにする
William Pesek | Contributor
先に開かれたジョー・バイデン大統領と岸田文雄首相の首脳会談で、円安が話題にさえ上らないであろうことは、世界の混乱状態について多くを物語っている。
ここ数年、日本の近隣窮乏化政策(自国の経済問題を、貿易相手国に損失を押し付けるかたちで回復を図ろうとする経済政策)は、喫緊の議題になるはずだった。
しかし、中国の軍事的台頭、ガザから紅海までの情勢、ドナルド・トランプが大統領に返り咲く可能性に対する懸念のせいで、為替レートのダイナミクスを話しあう地政学上の余地はほとんどなかった。
だが、バイデン政権の米財務省はもうそろそろ、円の慢性的な歪みが持つ影響について、経済的な現実に照らしつつ、もっとよく考えてみるべきだろう。
とりわけ重要なのは、中国に対して、日本との「底辺への競争」に突入する動機を与えていることだ。
実際、米国の同盟国である日本が、あれほど堂々と輸出刺激策をとっているときに、中国の習近平国家主席が、自国が同じことをしても正当化できると考えない理由があるだろうか?
そうなったら韓国、シンガポール、インドネシアといったアジアの経済国も、為替レートに天井を設ける行動を起こし、金融界が揺らぐことになるだろう。
日本政府は、日本が円安政策を続行しているとの主張に異議を唱えている。
なんといっても、日本銀行はつい先ごろ、17年ぶりの利上げに踏み切ったのではないか?
確かにそのとおりだ。
しかし円が、日銀がマイナス金利政策を解除した前日の3月18日よりも安くなっているのには理由がある。
日銀が3月にとった施策は、円ドル相場を急騰させずに実施できる、ごくごく小さなものだった。
介入可能性をめぐる、鈴木俊一財務大臣のやや意気地のない、形式的なコメントも、真剣に聞くことはできないものだった。
その理由は、25年あまりにわたって円安政策を続けてきた日本が、その戦略を終わらせるのに苦労していることにある。
アジア第2の経済大国である日本にとって、円安政策は、プラスよりもマイナスの方が大きい。
2024年入ってから4月までに、円は7.6%下落している。
通貨安が繁栄の秘訣になるなら、アルゼンチンとインドネシアはG7のメンバーになっているだろう。
円安はアメリカが恐れるより日本が恐れている
ウィリアム・ペセックは、円安はアメリカの貿易収支に悪影響を及ぼすと言っているが、その心配は多分ない。
だって、未だ日本の御貿易収支は黒字に転換していない。
その理由は、もはや日本は生産基地ではないことを示している。
自動車のトヨタをはじめ、帝人、日本ペイント、ヒロテック、富士フイルム日清製粉グループ、大日本住友製薬・JSR、クボタ・・・など多くの日本企業がアメリカで生産している。
最早、日系企業による輸出額は国別で比較すると最大になっている。
下図が示す通り、日系企業による米国から海外への財の総輸出額は、2017年時点で952億9,600万ドルと米国の総輸出額の6.2% (GDP比0.5%)を占めており、10年連続で世界1位となっている)。日本以外では、英国(422億9,500万ドル)、ドイツ(410億1,200万ドル)などが多い。
日本企業がアメリカで生産した財を米国外へ輸出すると、当然米国GDPの増加にも寄与する。
ゆえに幾ら円安でも、日本がアメリカに売るものがなければ円安の悪影響はアメリカには発生しない。
それどころか、アメリカや中東から買う、食糧やエネルギーが高騰している日本の方が深刻なのである。
再三にわたる物価の値上げがそのことを明確に証明している。